「Spirit of Wonder」作者が30年越しの告白、日高のり子はチャイナさん第2候補だった
鶴田謙二原作によるOVA「Spirit of Wonder Blu-ray BOX」の発売を記念したトーク・上映会イベントが、去る3月2日に東京・ヒューマントラストシネマ渋谷で開催され、鶴田、チャイナ役の日高のり子、ドラマCD「チャイナさんの逆襲」主演出を務めた庵野秀明、プロデューサーの杉山潔、MCとしてアニメ特撮研究家の氷川竜介が登壇した。
3月27日発売の「Spirit of Wonder Blu-ray BOX」には、1992年制作のOVA「チャイナさんの憂鬱」、2001年制作のOVA「少年科學倶楽部」「チャイナさんの縮小」「チャイナさんの惑星」、2003年制作のOVA「チャイナさんの盃」の計5作品を収録。鶴田の描き下ろしイラストを使用した収納BOX、「鶴田謙二新規描き下ろしショートショートコミック『Tale of the Book』」、1993年制作のドラマCD「チャイナさんの逆襲」など、さまざまな特典も付属する。
1986年から1994年にかけて、モーニング、月刊アフタヌーン(ともに講談社)と雑誌を跨いで連載された「The Spirit of Wonder」。単行本の1巻が発売された1988年時点では、「チャイナさん」はまだ世に発表されていなかった。これについて鶴田は「2巻はもう出さずに、別作品で週刊連載をやろうと言われたんです。でも、その週刊連載も数週間で終わってしまった。結局、月刊誌のほうで『The Spirit of Wonder』の続きを始めることになり、1本目として描いたのが『チャイナさん』でした」と説明する。
庵野は「The Spirit of Wonder」の連載開始当初から同作に注目していたそう。「モーニングに1本目が載ったときに『あ、すごい人が出たな』と思った」と語る。その後、庵野は鶴田と友人に。「『チャイナさん』はいろんな事情で単行本化されそうにないと聞いたから、僕のほうでお金を出すから同人誌として出そうと。コミケで売りました」と、ドラマCDだけでなく原作にも深く関わっていたと明かした。
鶴田にアニメ化の話がきたのは、連載再開から2本目の「チャイナさんの願事(ねがいごと)」を描いた前後。杉山プロデューサーは大学時代に「The Spirit of Wonder」を読んでいたそうで、「鶴田さんの絵がすごく好き。映画的で、アニメーションにするならこんな画がいいなと思っていた。物語も説明的ではなく、コマの行間で見せる大人の演出」と魅力を述べる。アニメ化については「当時、OVAって実験しやすいメディアだったんです。僕は東芝EMIに入りたての頃で、会社もアニメを始めたばかり。周りも上司もアニメのことを知らなかったから、企画書をスッと出したら通ったんです(笑)」と話した。
ドラマCD「チャイナさんの逆襲」には、庵野いわく「あまり真面目じゃない『チャイナさん』も見たい」という鶴田の意向が反映されているという。日高が「チャイナさんのキャラが壊れてしまいそうなお話だったので、鶴田さんが悲しむんじゃないかなと思ってたんですが……」と当時心配していたと話すと、庵野はすかさず「逆ですよ。望みだったんです。同人誌に続き、僕は彼の願いを叶えてるんです」と堂々と返した。
イベントでは、キャスティングについての裏話も。日高は「『~ある』という中国訛りっぽい言葉が初めてだったので、ボイステストのときは『らんま1/2』でシャンプーを演じていた佐久間レイちゃんを思い浮かべました」と回想する。鶴田からは「日高のり子さんのファンだったんですけど、『ふしぎの海のナディア』と『トップをねらえ!』を観てたので、それと被りたくないなと。だから最初は(リリィ役の)渕崎ゆり子さんをチャイナさんに推薦してたんです」と衝撃の事実が。自分がまさかの第2候補だったと初めて聞かされた日高は、「渕崎ゆり子ちゃん、『トップをねらえ!』に出てますからね!?」と笑いながら切り返した。
鶴田の作品の魅力を改めて聞かれると、庵野は「圧倒的に画力。当時から完成度が高く、今の絵柄とそんなに変わらない」と回答。そんな称賛の言葉の後に「それでいて内容がマイナーで、全然売れそうにない。『売れるの描きなよ』って言ったことあるけど、頑なに描かなかった。そんな頑固なところも彼の魅力」と続ける。これを受け、鶴田は「とにかく、みんなと同じは嫌なんです。みんなが描いてないほうへ、描いてないほうへといくと、当然売れるマンガなんかできるわけない。でも、そういうのがいいと言ってくれる人がいるだろうと思って描いてます」と信念を語った。
特典の「鶴田謙二新規描き下ろしショートショートコミック『Tale of the Book』」は、フルカラーになることも告知されている。杉山プロデューサーは「表紙と裏表紙が独立してるものではなく、中身にリンクしている面白い構成です。『Spirit of Wonder』の30年ぶりの新作、ぜひ楽しみにしていてください」とアピール。最後に日高は「キャスティングの秘話がありましたが、鶴田さんの美しい画のキャラクターを、物語を演じさせていただけたことは自分にとって宝物です」と挨拶し、鶴田は「『チャイナさん』以降、僕にアニメ化の話がきたことはありません(笑)。ですから、僕が本当に心から言いたいのは『杉山さん、ありがとう』ということです」と感謝の言葉で締め括った。
※日高のり子の高ははしご高が正式表記。
「Spirit of Wonder」作品概要
スタッフ
原作:鶴田謙二(講談社刊 週刊モーニング/月刊アフタヌーン掲載)
アニメーション制作:亜細亜堂
「少年科學倶楽部」
監督・脚本・絵コンテ・演出:安濃高志
キャラクターデザイン・作画監督:柳田義明
場面設計:関根昌之
メカ設定:児山昌弘
色彩設定:すずきたかこ
美術監督:吉原俊一郎
撮影監督:松澤浩之
編集:坂本雅紀
音響監督:三間雅文、柏倉ツトム
音楽:松尾早人
「チャイナさんの憂鬱」
監督・絵コンテ:本郷みつる
脚本:島田満
キャラクターデザイン・作画監督:柳田義明
設定:西村博之、海谷敏久
美術監督:小倉宏昌
撮影監督:斎藤秋男
録音監督:大熊昭
編集:布施由美子
色彩設計:一ノ瀬美代子
音楽:田中公平
「チャイナさんの縮小」「チャイナさんの惑星」「チャイナさんの盃」
監督・脚本・絵コンテ・キャラクターデザイン:藤森雅也
メカ設定:楠部工、柴田外郎
演出:根岸宏樹、藤森雅也
作画監督:関根昌之、藤森雅也
美術監督:吉原俊一郎
撮影監督:松澤浩之
編集:坂本雅紀
音響監督:三間雅文、柏倉ツトム、大熊昭
音楽:松尾早人
キャスト
「少年科學倶楽部」
ウィンディ:柚木涼香
ジャック:鈴村健一
ゴードン:土師孝也
クーパー:広瀬正志
シェパード:岡和男
「チャイナさんの憂鬱」「チャイナさんの縮小」「チャイナさんの惑星」「チャイナさんの盃」
チャイナ:日高のり子
ジム:柴本浩行
ブレッケンリッジ:羽佐間道夫
リリィ:渕崎ゆり子
(c)2001・2003 鶴田謙二/講談社・バンダイビジュアル
(c)1992・1993 鶴田謙二/講談社・UNIVERSAL MUSIC LLC